耳の病気と治療法

中耳炎

慢性中耳炎

鼓膜は再生能力が高い器官で穿孔が生じても普通は自然に閉鎖します。しかし、炎症などが原因となり自然閉鎖されない場合もあり、中耳腔という鼓膜の裏側が外気に晒されると、炎症が慢性的に持続するようになります。

このように急性中耳炎の遷延や外傷などで生じた鼓膜の穿孔が、残存することで引き起こされるのが慢性中耳炎です。

症状

鼓膜の穿孔による炎症の長期化で、粘膜の肥厚や石灰化が起こり、耳小骨という音を伝える小さな骨の可動性が低下する伝音難聴難聴が進行します。また、炎症による耳だれも主な症状で、特に風邪などで体調を崩した際に生じます。

振動を電気信号に変換する器官の蝸牛のはたらきが、炎症で徐々に低下する感音難聴もあり、慢性中耳炎では伝音難聴と感音難聴を併発する混合難聴もよく見受けられます。

治療

病変が鼓膜に限局しているケースでは、鼓膜形成術(接着法)という手術で鼓膜の閉鎖を行います。手術時間は30分程度で終わり、入院期間は1~2泊です。

耳小骨の障害に対しては、鼓膜から蝸牛への音の伝わり方を変える鼓室形成術という手術を行い、状態にもよりますが手術自体は1時間半から2時間程度、3~5泊ほどの入院期間が必要です。
いずれの手術も局所麻酔で行われることが多く、耳だれが継続している場合は、手術の前に内服薬や点滴で耳だれを止めることもあります。

滲出性中耳炎

滲出性中耳炎滲出性中耳炎は鼓膜の奥の空間である鼓室に滲出液が持続的にたまる病気です。耳と鼻の奥をつなぐ耳管の機能不全のほか、副鼻腔炎(蓄膿症)、アデノイド増殖症などの鼻の病気が引き金となります。

症状

幼児期や学童期前半までの子供に多く、軽度の難聴や違和感、耳閉感を伴うのがほとんどです。しかし、急性中耳炎とは異なり痛みはほぼなく、無症状のケースもあります。10歳を過ぎればその多くは自然に軽快しますが、放っておくと、鼓膜が薄くなって鼓室の壁と癒着する癒着性中耳炎、鼓膜が鼓室の奥に生じる真珠腫性中耳炎につながる恐れもあります。

治療

耳管から鼓室に空気を送る通気療法やマクロライド系などの抗生剤や粘液調整剤といった内服薬の投与が一般的です。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、アデノイド増殖症が原因の場合、その治療も並行で行います。

保存的な治療でよくならない場合、鼓膜を切開して貯留液を吸引除去する方法もあります。何度も貯留液の除去を繰り返すケースは、鼓膜に換気用のチューブを留置する方法も検討されます。

真珠腫性中耳炎

外耳道の皮膚と連続している鼓膜の表面には角化物(垢)が生じます。普通この垢は皮膚の自浄作用で耳垢として外に排泄されますが、鼓膜が陥凹していると角化物が溜まりやすくなり、この角化堆積物が細菌や真菌が培地となって炎症につながるのです。この炎症は周囲の骨を傷めつつ、増大していくとされています。

真珠腫性中耳炎とは、このように鼓膜の一部が内側に陥凹していることが原因で生じる中耳炎です。腫という字から勘違いされがちですが腫瘍ではなく、また、先天性の場合は鼓膜に関係なく中耳に存在します。

症状

音を伝える小さな骨である耳小骨や音を電気信号に変える器官である蝸牛など、中耳には大切な器官が集まっています。

特に蝸牛の機能低下を手術で治すことは現代医学ではできず、耳小骨や蝸牛に問題が起きれば難聴になります。また、平衡感覚をつかさどる半規管が破壊されるとめまいが起こります。中耳には顔面神経が走行しているため、真珠腫が原因で顔が曲がってしまうこともあり、炎症で臭いのする耳だれもよく出るようになります。

治療

鼓膜の陥凹が比較的浅いケースでは経過を観察したり、鼻からカテーテルで空気を送る通気療法が選択される場合もありますが、手術による真珠腫除去が基本となります。

手術の場合、当院では局所麻酔で実施し、5~6日間の入院が必要な場合が多く、病変の度合いにもよりますが手術時間は約2~3時間です。手術中にめまいが生じるリスクがある症例では全身麻酔で実施します。

急性中耳炎

急性中耳炎は中耳腔が細菌に感染することが主な原因となります。鼻の奥の上咽頭にいる細菌が、耳管を通り中耳腔へ侵入して感染するケースがほとんどで、大人よりも耳管が真っすぐで短く、細菌が中耳に侵入しやすいことから、子供に多く発症しやすいと考えられています。

症状

耳痛や耳だれが主な症状です。感染が特にひどい場合、中耳腔に膿汁がたまり痛みも強くなります。多くの急性中耳炎は風邪とともに発症しますが、急性中耳炎が発熱を引き起こすこともあります。

治療

膿汁が溜まるような重度の急性中耳炎では、鼓膜を切開し溜まった膿汁を排泄する必要があります。切開した鼓膜の穿孔は数日以内に閉じることがほとんどです。
軽度の場合は一般的に抗生剤による治療がとられ、発赤も軽度の場合は鎮痛剤のみで経過観察する場合もあります。

耳硬化症

耳硬化症は耳小骨を構成するアブミ骨の周辺が固まって、本来は鼓膜を通って内耳に伝わる振動が、正常に伝わらず難聴が生じる病気です。

アブミ骨の底の方に骨が生じた状態ですので、耳小骨は単独で機能しても音を伝えるはたらきに悪影響を与えるのです。日本人には比較的少ない病気とも言われますが、中年女性で発症することが多く、妊娠・出産などを契機に悪化する方も珍しくありません。

症状

アブミ骨の底の方に現れた骨が底板まで達すると、アブミ骨自体の正常なはたらきに障害を及ぼし、アブミ骨の固着によって伝音難聴を引き起こします。より重度な状態では蝸牛機能にも悪影響を与え、感音難聴を発症し、混合性難聴となるケースもみられます。難聴の進行は比較的遅いものの、妊娠後に悪化することがあります。

治療

軽度であればアブミ骨の動きを改善させるアブミ骨可動術を行いますが、重度に進行している場合は、アブミ骨の底に孔を開けて、人口耳小骨や人口軟骨を入れる手術を検討します。

外耳炎

外耳炎外耳は耳介と外耳道から構成され、外耳道は外側半分の軟骨部と内側半分の骨部に分かれます。外耳道炎や外耳道湿疹の原因としては、耳そうじなどによる皮膚の損傷、中耳炎からの耳漏刺激、点耳薬などの薬物刺激、アレルギーなどが挙げられます。

外耳道には定在菌という細菌や真菌が常在していますが、それらの理由で定在菌のバランスが崩れると、特定の菌だけが増殖し、感染や炎症につながるというのがメカニズムです。

皮脂腺や毛嚢のある軟骨部の皮膚では細菌感染が起きやすく、骨部では真菌が生じやすいとされています。

症状

疼痛、かゆみ、耳だれのほか、炎症による耳だれや角化物(耳垢)が原因となり、難聴や耳閉感を伴う場合もあります。

治療

外耳道炎には治療期間が長引く難治性のものもあり、その場合、頻回な通院による処置が必要です。局所の清掃と消毒が基本で、感染の疑いや真菌が認められるケースでは、必要に応じて点耳薬の抗生剤や抗真菌剤が処方されます。

かゆみの症状に対して、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤、抗不安剤などの内服薬が処方されることもあります。また、悪化した炎症などにはステロイドが有効な場合もあり、副作用を考えながら短期間、局所使用されることもあります。

耳鳴り

耳鳴り誰もが一度は経験したことのある耳鳴りは、内耳に異常があると生じやすく、騒音による難聴、突発性難聴、メニエール病、老人性の難聴などが原因となることもあります。

耳鳴りは脳内の神経の興奮で知覚されるもので、脳の信号音への過度の意識集中が原因です。内耳からの音情報を24時間受け取る脳は、無意識に音をふるいにかけ、重要ではない音は通常無視され意識に上りません。しかし、本来無視されるはずの耳鳴りの音が危険信号と錯覚されると、脳は誤って常に監視するようになるのです。

耳鳴りが何か月も続き、心身ともに疲弊してしまう症例もありますが、脳の過剰反応を様々な方法で抑えることで、耳鳴りは治療できます。お悩みの方は一度専門医にご相談ください。当院では難聴の診断・治療を行った上で耳鳴りが気になる方に、次のような治療を行っています。

①カウンセリングと内服治療

耳鳴りのメカニズムの理解を促し、意識を集中させないための具体的な工夫やアドバイスを差し上げます。抗不安剤・抗うつ剤・睡眠剤など内服治療は、補助的に行います。

②キシロカイン点滴治療

主に中等症以上の患者さまに行います。一日中続いているような慢性化した耳鳴りに対し、悪循環を解消するため、局所麻酔薬を点滴して、耳鳴りの原因である脳内の過剰な電気的信号を一時的に消します。

③TRT治療

小さな雑音発生装置であるサウンドジェネレーターを毎日3~4時間使用し、耳鳴りの音に脳を慣れさせる治療です。治療効果が高く80%以上の方に何らかの効果があり、中等症以上の患者さまに行います。約1ヶ月で耳鳴りは小さく感じられるようになり、3~6ヶ月ほどで耳鳴りは気にならなくなります。

難聴

難聴他の先天性の病気と比べても先天性難聴は頻度が高く、赤ちゃんの1000人に1人は生まれた時に先天性難聴があり、そのうち50%以上が遺伝子の関わる遺伝性難聴とされています。

父親と母親が持つ難聴の遺伝子が偶然に組み合わさった時にはじめて難聴として発症するため、遺伝といっても家族や親類に難聴者がいるとは限らず、実際には本人以外には難聴者がいない場合がほとんどです。難聴の原因遺伝子は30人に1人は保有しているとも言われています。また、高齢者の難聴や騒音による難聴にも遺伝が関与していることがわかってきています。

症状

聞こえにくいという難聴の症状ですが、加齢性難聴ように徐々に両方の耳が聞こえにくくなるものから、ある日突然聞こえなくなるものまで様々です。片耳の難聴、急に生じた難聴や変化のある難聴、耳鳴りやめまい、耳だれ、耳の痛みを伴う難聴は、治療可能な病気の症状であることが疑われます。

治療

遺伝子研究が急速に進んだことで、難聴の赤ちゃんや小さなお子さん、若い頃から難聴のある大人の患者さまを対象とする遺伝子検査が、難聴の診断と治療に用いられるようになってきました。

先天性難聴の患者さまの場合、平成24年から保険診療で遺伝子検査を受けることが可能になっており、遺伝性難聴の40%がこの検査で診断できます。原因遺伝子が発見されていない先天性難聴や、感染症など遺伝以外の原因による難聴が半数以上を占めますが、検査で難聴遺伝子が見つかれば、将来の難聴の進み方の予測や人工内耳・補聴器の効果の予測、悪化させないための注意点や次の出産のための遺伝相談などに役立ちます。

当院では秋田大学医学部の難聴(遺伝子)外来と連携し実際の検査診断を行い、遺伝子検査の詳細、診断治療、補聴器や人工内耳の療育について、臨床遺伝専門医の資格を持つ耳鼻科専門医が、わかりやすくご説明いたします。

遺伝性の難聴について様々なご質問にお答えしますので、お子さんの難聴でお悩みの方、成人の方で子どもの頃からの難聴で悩まれている方、難聴があるが近いうちに子供をつくりたいと考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。

めまい

良性発作性頭位めまい症

めまい

寝る時や起きた時、頭を上げた時、上の物を取る時などにグルグルと目が回るようなめまいの経験は誰しも一度くらいはあるのではないでしょうか。

めまいはほとんどの場合、数分以内に収まりますが、中には吐き気が生じさせたり、歩けなくなったりするほど症状が重たいケースもあります。

耳の三半規管の中には耳石(じせき)が多くくっついた部位があり、通常はこの耳石の重みによって身体のバランスがとられていますが、寝ている間に耳石のいくつかが剥がれ落ちたことなどが原因で、めまいが引き起こされることがあります。何度も繰り返し、頻発するようなめまいの症状は、落ち着くまでに1〜2週間あるいは数カ月も要することも少なくありません。

耳石が元の場所に戻るとめまいもなくなります。寝起きなどの日常生活の動作で自然と戻ることもありますが、薬では剥がれた耳石をもとに戻すことはできず、めまいの治療ではリハビリの実施も効果的です。吐き気などの症状が強い患者さまには、吐き気止めの薬を処方することもあります。

メニエール病について

難聴や耳鳴り、耳がふさがったような感じや音が響くような感じがするといった耳の症状とめまいが、同時に起きる病気です。一旦は良くなっても何度も同じ症状を繰り返してしまうことが特徴です。

めまいについては、目がまわったときのようなグルグルとしためまいやフワフワと浮遊感のあるようなめまいが、10分から数時間にわたって続きます。1回のみならず、何度も頻発することが診断の基準となります。

原因

耳の奥には聞こえ方をつかさどる蝸牛と、バランス感覚を司りめまいの原因となる三半規管が存在します。中はリンパ液で満たされていますが、メニエール病はこのリンパ液の流れの異常で、蝸牛と三半規管が両方ともむくんでしまって引き起こされる病気です。

リンパ液の滞りによるむくみは、ストレスや睡眠不足、疲労、気圧など天候条件の変化によっても生じます。

治療

メニエール病の治療ではゼリーの薬を処方するのが一般的です。併せて、吐き気が強いケースでは吐き気止めの薬を処方することもあります。ゼリーの薬は1日3個服用し、完治までの期間は多くの場合は1ヶ月程度、短くとも1〜2週間かかります。

メニエール病は症状の改善と発症を繰り返すため、少しずつ「そろそろ症状が出そうだな」と、ある程度予想できるようになることもあります。なるべく早めの受診を心がけ、突然の発症に備えて常にゼリーの薬を手元に持っておくことをおすすめしています。